当協会会員社、株式会社キューアールシーのY氏は、大層な酒飲みである。酒飲みの友人の多い筆者ではあるが、Y氏は確実に上位にランクされる。打ち合わせの際も、マクラは大抵“酒”。あるいは“整体”か。お互い寄る年波には勝てない。そんな打ち合わせの最中、文化放送の「ラジオCMコピー大会」の話を聞いた。大会の2、3日前のことだった。これはネタにばっちりじゃん! と一瞬のうちに、こじつけもとい取材方針を考え、どうか私も入れてたもれ、と、猫の苦手なY氏にゴロニャンをしたのだった。ちなみに、Y氏は、大会の運営担当であった。観覧記を書いている今となっては、なんでもっと早く教えてくれなかったの! とうらみの一言も言いたい。
4月7日、原宿クエストにて文化放送・広告批評共同主催による『第22回100万円大賞ラジオCMコピー大会』が開催された。この大会は、協賛広告主(今年は19社)の課題に基づく20秒のラジオCM用コピーを競うもので、参加はプロ・アマを問わない。審査員は、伊藤アキラ氏、川崎徹氏、鴻上尚史氏、麻生哲朗氏、天野祐吉氏(審査委員長)。グランプリ(100万円)の他、審査員賞、優秀賞、リスナー大賞など、計20作品が受賞した。
この大会は公開で、文化放送の番組収録も兼ねている。同放送の看板アナウンサー、野村邦丸・水谷加奈両氏が、適度なツッコミを見せながらイベントを進めて行く。審査員の顔ぶれも豪華だが、協賛広告主(以下スポンサー)もよくこれだけいろいろ集まったもんだ。下から上までさまざま(意味は後段から想像するか文化放送ホームページをご覧下さい)。下調べなしだと、何が売りなのか分からないところも。
応募総数25,308点のうち、予備審査を勝ち残った57作品が披露される。さすがは“ラジオCM”。青二プロの声優の面々が、ステージ上で生でCMを演じるのだ(決して読み上げるのではありません)。アニメや洋画の吹き替えその他でお馴染みの面々。恐らく名前をしらなくても、「ああ! この声は!!」と感激するくらいの華麗なメンバーである。
スポンサー1社あたり3作品が候補となっている。それが次々演じられていく1社3作品が終わった時点で審査員の講評がある。最初は耳がついていかない。終わってみると、何も覚えていない。シナリオを持っていないのだからしかたないと自身を慰めつつ、なんとなくショックを感じる。健忘症も加齢により悪化の一途のようだ。テンポに慣れてくると、声優さんの声音(こわね)や間(ま)、SEのタイミングなどが楽しめるようになる。慣れが、多少健忘を補ってくれる。
スポンサーの中には、対象商品の用途が相当に具体的で(コ●ドームとか・・・)、そういったものは確かにイメージしやすい。逆に、陳腐になる危険性も秘めている。一方、商品としてはあまりに一般的である場合、ストーリーの設定など、表現が商品から乖離しすぎないバランスが難しくなるようだ。20秒の中での起承転結。進むにつれて、聞いているこちらもそれを意識するようになる。ラジオCMに限らず、広告そのものの考え方も、審査員の話の中に現れてくる。徐々に、ラジオCMとはこういうものなのかという、私なりのイメージが出来上がっていく。そうなると、作品を楽しみ、次に作品に対し審査員がどう評価するかを予想するようになる。ほとんどはずれたが、評価の別の文脈を見つけ出し、ひとり悦に入ることも。
さて、すべて終了し、会場は、逸る気持ちを抑えて審査結果を待つ。多分アレだ・・・、と思いつつ。その間、アナウンサーの二人が会場を盛り上げる。そしていよいよ結果発表。栄えあるグランプリを獲得したのは・・・、『第22回100万円大賞ラジオCMコピー大会』でご覧下さい。
〔後日談〕 「いーなー、あれ」。ということで、Y氏にスポンサーになるにはいくらかかるのかを聞いた。ちなみに、今年は、当協会と関係の深いJASRAC(日本音楽著作権協会)もスポンサーになっている。コ●ドーム、連合(日本労働組合総連合会)など、コピーによってイメージも少し変わってくるように思う。
募集期間、大会、結果発表と、かなりの期間、スポンサー名が露出する。大会の模様は後日放送されるが、人気番組である。しかも、コンペティションだから、作る側は採算度外視で真剣だ。こちらが考えている以上のイメージが出来る場合もある。表現の上で、クライアントが提示する制約は多いだろうが、候補作品からは、制約を素直に取り入れたり、あるいはギリギリのところではずしたりと、多様な表現が見て取れた。うーん、スポンサー側にすると、これはかなり効率のいいPRではないだろうか。
単純な連呼型は少なく、ドラマ性が際立ったもの、グラデーションのような変化の妙のあったもの、表現もさまざまで、たった20秒が、長いというより充実して感じられた。日常生活の中では、視覚情報が圧倒的に多い。以前、聴覚障害を持つ方が視覚情報の狭さについて語ったのを聞いたが、とても印象的だった。耳から入る情報について、もう少し見直して(聞きなおして?)みたい気持ちになった。(S)