JAPAN BGM ASSOCIATION.

■エッセイ・コラム

夜が更けて戸を叩くもの ― おばけ音の読み方

夜が更けて戸をばさばさと叩くものがある。戸をあけてみても誰もいない。こんな経験をしたことのある方はいらっしゃいますか? それはきっと妖怪「波山(ばさん)」ですよ。もっとも姿を見た人はいないそうですが・・・。


風が吹いたわけでもない、地震が起こったわけでもない、でもガラス戸がガタガタいったり、部屋の中でピシッと音がすることがあります。これらはかつて“おばけ音”として、原因不明とか、一部オカルトとか言われてきました。今では、低周波音、不思議音として、室内の温度差とか周辺あるいは遠隔地からの振動の伝播などによるものであることがわかっています。けれども、今ほど色々な音がなく、しかも夜は暗闇が支配していた時代の人たちは、こうした聞き慣れない音をどのように感じていたのでしょうか。


「闇」と言う字は、門戸を閉ざした暗い家の中で音だけが聞こえることを表しているそうです。家は結界でもあり、結界の外から不審な音がすればそれをもののけと思うのも無理はないでしょう。冒頭の妖怪「波山」は、“ばさばさ”という音から“大きな鶏のようなもの”と連想されています。つまり、妖怪がそこにいて発した音ではなく、音から妖怪を想像しているのです。「小豆洗い」「こだま(山彦)」も同じ範疇に入ります。


音の情報は、映像と違って直接的でない分、連想を導きやすくなっています。日常生活という文脈から外れた音は、緊張を生起させ、更に恐怖を想起させることにもなります。そんなところから、新しい文脈としての妖怪が創造されたということも、一面としてあるのではないでしょうか。


とにかく、様々な怪異譚、妖怪絵があります。現代において水木しげるや宮崎駿は言うに及ばず、ネットや雑誌には怖い話が満載ですし、オタクにも妖怪は大人気です。現代生活はあらゆるものがさらけ出されているような感がありますが、「闇」への恐れと密かな憧れは、時を越えて私たちの心の奥底に宿り続けているのではないでしょうか。 (S)


参考:『桃山人夜話~絵本百物語~』竹原春泉(角川文庫)、
「低周波音という名の“おばけ”」落合博明(小林理研ニュースNo.97)


事務局 渡辺攝子
(2007年/平成19年)