JAPAN BGM ASSOCIATION.

■エッセイ・コラム

『宮城なつかしCM大全集』の制作を振り返って
アシスタントプロデューサー・取材・ライター 伏谷宏二

世間では「昭和30年代」がひとつのブームになっているが、まだ今ほど物がなく、もちろんCDもビデオもコンビニもなかったこの時代、ラジオ・テレビや街頭で流れるCMソングは、商品のコマーシャルという以上に、親しみをもって皆に受け入れられていたような気がする。その懐かしいメロディーを一同に集めたCDを作るという企画。それも全国放送でなく、地元、宮城県のラジオ・テレビで流れた企業・老舗のCMソングで30年代を振り返るというものだ。筆者の役目は、素材の確保、権利者との交渉、取材、ライナーノート執筆などよろず全般にわたったが、当初“懐かしい30年代探し”に籠められていたはずの郷愁は、現実の壁の前にもろくも崩れ去った。


音源素材がどこにあり、権利者は誰なのか。なにしろ30~40年前の話である。契約書も残っていないが、広告主(発注した企業)が権利を買い取るというのが通例なので、広告主との交渉がまず第一段階となった。次に音源素材である。当時の機材は6ミリのオープンリールが主力であり、現在のカセットやCDと違って再生機を広告主が自前で持つということは極めて少なかった。そのため、素材は、広告代理店、メディアの預りという形が多かったようだが、当時の担当者は皆退職しており、許諾交渉以前にテープ探しが必要だということになった。幸い、東北放送社の倉庫で100巻を越すCMソングのテープが見つかり、東北放送施設社や仙台有線放送社預りのテープも発見された。テープが無かったものは、レコードやソノシートを利用した。これでCD制作に必要な数量は確保できた。


予想以上に苦労したものの、第一段階の音源確保はなんとかクリアし、次は権利者との許諾交渉である。これには筆者がひとりであたっていたが、この交渉がCD制作過程の最難関で、CDの発売が延び延びになった原因となった。


まず、発見されたテープのほとんどに、作詞・作曲・演奏等のクレジットが記入されていなかった。従って、当時の書類から割り出すより手がない。すでに退職している企業・広告代理店の担当者、テレビ・ラジオの営業担当者等を調べ、手がかりを探った。その数は、のべ200人以上にも及んだ。


著作権については、ジャスラック録音2課のすばやい対応に助けられた。ジャスラックの会員であるかどうか、即座に回答をもらうことができた。問題は、ジャスラックの会員でなかった場合である。連絡先を調べ個別に交渉となったが、幸い、ほとんどの方がこちらの趣旨を理解して下さり、快く了承して下さった。一方、著作隣接権にはてこずらされた。歌手など演奏者(実演家?)が関係する二次使用については、まだ規定が整備されておらず、管理する団体もない。これも演奏者全員、個別交渉となった。こちらについては、売上の一部を社会福祉法人に寄付すること、制作が1000枚限定ということで了承して頂いた。


また、思わぬ苦戦を強いられたのが、個人情報保護法だった。なにしろ、演奏者ひとりでも許諾を得なければ音源が使えないのに、個人情報保護法を盾に、連絡先を教えてもらえないことがたびたびあった。まず、著作者の権利、そして実演家の著作隣接権。それらを法的に問題にならないよう処理しようとしたら、個人情報保護法の壁。進むに進めぬ状況に、国が定めた法の矛盾を痛感した。こうした企画はこれから増えていくだろう。実際、アーカイブ作成に着手しているところも多い。皆が安心して利用できるルール作りが急がれると痛感した。


この間のエピソードをひとつご紹介しよう。歌手の場合、現役で活動している方ならインターネットやタレント名鑑で事務所を調べることができるが、引退した方だとそうはいかない。そこで、当時関係していた方々へのリレー連絡となった。引退して30年ほど経過したある歌手の方だが、当時所属していた事務所もすでになかったが、たまたまその父君が著名な方で、父君のお墓の所在先を割り出し、お寺の住職に趣旨を説明し、檀家を紹介して頂き、そこから件の歌手の所在先を調べ、やっと本人の許諾を得たということがあった。


広告主に始まり、実演家に至るまで、紆余曲折、ずいぶん多くの方々を訪ね歩いたが、それでも所在先がわからない作詞・作曲家、歌手の曲がある。発売したCDに情報提供の案内を掲載したが、残念ながらまだ連絡はない。しかし、本当に多くの方々にご協力、励ましを頂いた。関係の皆様には心から感謝の意を表したい。


制作途上では、今回書き連ねた以外にも様々な困難があったが、それらもなんとかクリアし、4月25日、ついに発売にこぎつけた。事前にマスコミから取材があるなど予想以上の反響があり、1,000枚のCDは2日で完売した。企画立案から5年、数々の難作業が脳裡によみがえる。ご好評を頂き嬉しい半面、まるで打ち上げ花火の後のような、一抹の寂しさが、今は心に残っている。


伏谷宏二(ふしや こうじ)プロフィール

『宮城なつかしCM大全集』公式ホームページhttp://www12.ocn.ne.jp/~bgmbgm/miyagiCMofficial/miyagiCMtop.htm
東北放送施設株式会社http://www12.ocn.ne.jp/~bgmbgm/